【特別鼎談・知事に聞く】多様性と包摂性にあふれ、 一人ひとりが主役になる東京を

東京は世界有数の国際都市。

コロナ禍が一区切りした現在、観光需要の回復が期待されるとともに、コロナ禍を経て得たさまざまな知見をもとに、東京発の新たな都市づくりが注目されています。

また人口減少社会に向かう日本では、人材の確保・育成も重要な課題。首都東京がその牽引役を担うのは間違いありません。

国際都市・東京の未来と人材に関するさまざまな取り組みについて、令和5年(2023年)5月29日、小池百合子・東京都知事に伺いました。

小池百合子(東京都知事)
小林光俊(一般社団法人外国人留学生高等教育協会 代表理事、学校法人敬心学園 理事長)
松澤建(民間外交推進協会 理事長、全国警察官友の会 会長、一般社団法人外国人留学生高等教育協会 理事)

危機をチャンスに。東京五輪のレガシーも活かしサステナブル・リカバリーを推進

当日の様子(左から松澤氏・小林氏・小池氏)

小林光俊(以下「小林」): 女性活躍の時代と言われるなか、小池知事は多くの人々にとって、その象徴となる存在です。
テレビキャスターを経て政界に入られた後のご活躍は周知の通りですが、一つ挙げると環境大臣をなさっていた2005年、クールビスを提唱されました。おかげで私たち男性も暑いさなか、ネクタイから解放されて大変助かっております(笑)
また防衛大臣、自民党の総務会長と、女性初となる重職を数々歴任され、2016年より東京都知事として今日まで都政を牽引してくださっています。
そうしたなか、小池知事は、「島国である日本が生きていくためには、世界との繋がりが不可欠」と述べておられます。
そこで今回は、世界100か国以上の大使が参加する民間外交推進協会の松澤理事長とともに、私も外国人留学生を支援する組織の長として、国際都市・東京の未来と人材養成等についてお話を聞かせていただきます。
どうぞよろしくお願いします。

さて、新型コロナウイルス感染症の発生から3年以上が経ちましたが、この5月8日から感染症法上の分類が「5類」に移行し、感染対策の変化も含めて新たなフェイズに入りました。
一方、コロナ禍の2021年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、東京および日本の魅力発信や、共生社会の実現に向けた取り組みなど、これからの社会づくりに資する多くの成果をもたらしたと感じています。
大会の成果とウィズコロナの新局面を踏まえて、知事が今後、どのような方向をめざしていかれるのかお伺いします。

小池百合子(以下「小池」): コロナ禍は、東京都内で最初の感染者が確認された2020年1月24日から、およそ1200日にわたる長い闘いとなりました。
感染の不安とともに日常生活がさまざまに制限されるなど苦しい状況のなか、1年遅れになりましたが東京2020大会という、これ以上ないくらいの大きな国際イベントを開催いたしました。
選手たちの活躍が東京そして日本はもちろん、世界中に勇気と感動を届け、人々の希望の灯りになったと考えております。


小池百合子氏

大会の開催を通して意識したのは、危機管理の重要性に加えて、人々が理解しあって共に暮らす「段差のない社会」をつくることです。
パラリンピックなどでは車椅子を活用される方も多くいらっしゃるので、ちょっとした段差が大きな障害になります。
こうしたことを意識しながら、ソフト・ハード両面から共生社会の実現に取り組みました。
東京2020大会の成果は、都市の発展の中で受け継がれ、多様性と包摂性にあふれた東京を創りあげる上で大きなレガシーになったと思っています。

小林: 多様性と包摂性をベースに、具体的にはどんな施策を行っておられますか。

小池: 昨年の11月から、多様性にあふれる東京の象徴として、「東京都パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始しています。
性的マイノリティーのパートナーシップ関係にある方からの宣誓・届け出を、都が受理したことを証明する制度です。
例えば、都営住宅への入居申込みなど、新たなサービスが受けられるようになりました。
また今年3月には、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現をめざす条例」に基づき、「第2期東京都性自認及び性的指向に関する基本計画」を策定しました。
さらに昨年9月から手話の言語としての普及をめざす「手話言語条例」が施行されました。
2025年には東京にて、世界陸上競技選手権大会と、日本で初開催となるデフリンピック大会(※)が開催されます。
これらをきっかけにしながら、共生社会の一層の推進を図っていきたいと考えています。

※ 4年に1度、世界的規模で行われる聴覚障害者のための総合スポーツ競技大会

松澤建(以下「松澤」): 大変ご立派な取り組みです。
私たち都民、そして国民のほとんどは知事に心から尊敬と感謝の念を抱いております。
本日はまず、このことをどうしても申し上げたくて馳せ参じました。


松澤建氏

冒頭にご紹介いただいた通り、私ども民間外交推進協会には現在、世界102か国の駐日大使が名誉会員として参加されています。
最低でも年間102回は会合を持ち、特にそのなかの40人前後の方々とはきわめて親しくお付き合いいただいています。
私が民間の立場でございますので、皆さん本音で話をされるのですが、口を揃えておっしゃるのは、東京は、日本は素晴らしいと。
自分の国の人々にもぜひ東京、日本を見てもらいたいと、常々言っておられます。
ただ時には、これほどの豊かな社会を維持するには、かなりコストが掛かるのではないかという心配もいただきます。

小池: 確かに日本は人口減少社会であり、また現在はロシアのウクライナ侵攻にともなう国際社会の混乱や円安などを反映して、エネルギーも含めた物価高騰という状況に直面しています。
さらに、世界的な気候変動や激しさを増す都市間競争など、東京を取り巻く環境は厳しいと認識しています。
物価高騰に関して振り返ると、1970年代にはオイルショックがございました。
このとき日本は省エネ技術など世界に誇れる新しい技術を次々と生み出して乗り越えました。
我が国には危機をチャンスに活かしてきた経験と実績があります。今回もさまざまな技術革新につながることを期待しています。
都は、コロナ禍からの復興にあたり、「サステナブル・リカバリー(持続可能な回復)」を目指しています。ただ元の生活に戻るのではなく、コロナとの長い闘いを糧に、持続可能な活気あふれる東京をつくってまいります。

松澤: おっしゃる通りです。
私も東京、日本をよく見ていただくと心配には及ばない、と皆さんに申し上げています。
今後も民間の立場から各国大使の皆さんを通し、大いに東京の魅力を発信してまいる所存です。

世界に選ばれる東京の魅力を、たゆまなく動き続けることにより発信

松澤: 国際都市・東京は、世界に冠たる観光都市としてのさらなる発展も望まれています。
東京には食やサブカルチャーなどさまざまな魅力があふれていますが、あらためて世界の人々から選ばれる観光都市の実現に向けた取り組みについてお伺いします。

小池: コロナへの対応が新たな局面に入ったことで、いわゆるインバウンド(訪日外国人旅行者)の方々が一気に増えました。
今年の4月だけでも全国で195万人となっており、コロナ発生前の2019年4月と比べて概ね7割程度まで戻ってきています。
今後、インバウンド需要は円安も追い風になってさらに高まるかと思います。
おっしゃられたように日本の多彩な食文化や、ファッション、アニメといった文化は、日本を訪れる方にとって大きな魅力です。
なかでも東京はミシュランの星付きレストランがパリよりも多く、数多く開かれるファッション、アニメのイベントなどにも大変興味を抱いてもらっています。
アニメでは、「アニメの街」として知られる池袋に、著名な漫画家の作品を展示する新たな拠点づくりを進めています。
これにより回遊性が生まれることも期待しています。
また、東京の夜を彩るプロジェクションマッピングを都内の複数のエリアで演出していきます。


SusHi Tech Tokyoロゴと小池氏と

都では、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトとして、「Sustainable High City Tech Tokyo=SusHi Tech Tokyo(スシテック東京)」を掲げています。
「サステナブル」と、「ハイテク」を重ねると、世界中に知られる「SusHi(鮨)」になるのですね。
この「SusHi Tech Tokyo(スシテック東京)」を旗印として、東京をPRしています。
今年2月に開催したスタートアップイベントでは、国内だけでなく海外からも多くの企業が参加し、最新技術や知見が披露され、建設的な交流が深まりました。
夏頃にはデジタルコンテンツを活用した取り組みとして、有楽町にメディアアートの体感拠点をつくります。
冬にはデジタル空間を舞台とするイベントも開催する予定です。
寿司ネタになぞらえると、マグロという魚は生まれた瞬間から最期まで動き続ける回遊魚です。
東京という街も、新しいこと、面白いこと、革新的なことを求めて常に動いている。
こうした取り組みにより、引き続き世界に訴求する東京の魅力を確保していきたいと思っています。

松澤: 多彩な取り組みを企画、実現されておられること、大変心強く思います。
デジタルコンテンツなど最先端のテクノロジーを活用したイベントが多いという点も東京らしいですね。

「働きやすい都市」に向けて、外国人留学生の就職活動もサポート

小林: 天然資源が少なく、少子高齢化が進む日本では人材の活性化が大きな課題となっています。
知事は世界との繋がりが不可欠、とおっしゃり、また都として共生社会の実現を推進するなか、外国人人材への期待や、人材の受け入れに対する都の取り組みを教えてください。

小池: 昨年10月時点の外国人労働者は全国で182万人と過去最多を記録し、そのうち50万人が都内で就労しています。
また、都内の学校に通う外国人留学生は全国のおよそ3割を占める約8万人です。
さらに国内の専修学校に在籍する外国人留学生の7割が日本での就職を希望しているものの、実際の就職は4割に留まっているというデータもあります。
東京で美容を学んだ、アニメを学んだ、ITを学んだといった経歴は、母国の業界で通用するブランド価値になります。
どの先進国も少子化を背景に国際的な人材獲得競争が激化しているいま、世界から東京を選んでもらうためには、やはり「働きやすい都市」にするための工夫が必要です。


小林光俊氏

小林: おっしゃる通りです。
外国人留学生の就労については、東京都が提案した国家戦略特区制度の活用により、これまで日本で就職できなかった美容専門学校の留学生が、卒業後も美容師として日本で働けるようになりました。
2022年からスタートし、先般は全国紙で特集されるなど、大変高く評価されており感謝申し上げます。
このような特区の取り組みは美容だけでなく、ぜひ他の分野にも広めていただけるとありがたく存じます。

小池: 外国人留学生の就職活動に関しては、東京外国人材採用ナビセンターという拠点でも支援しております。
就職活動中の外国人材向けの相談をはじめ、就職活動のポイントを学ぶセミナーや企業説明会の開催、インターンシップの機会提供と、きめ細かにサポートしています。
ほかにも中小企業や外国人材を対象として各種支援策に取り組んでおり、例えば「東京で働こう。」という多言語サイトでは、外国人材の活用事例などの紹介を通して、東京で働くことの魅力を海外に発信しています。
外国人材の活躍に向けて力強く後押しをすることが、東京のみならず日本にとっても重要と考えています。

小林: 心強いお言葉です。
とりわけ優秀な外国人留学生が日本で働くことは、我が国の国力維持・発展に寄与するのみならず、帰国された時に就労経験を活かして母国の活性化のリーダーとして活躍される、さらには母国と我が国の架け橋になっていただく、という好循環をもたらすものと期待しております。


左から松澤氏・小林氏・小池氏

そのために今後、日本は職業教育も含めた「教育立国」として、アジアの人材教育におけるハブ機能を果たしていかなければなりません。
インターナショナルスクールなど、制度上の課題も色々とありますので、そうしたこともご支援いただければありがたく思います。
国際社会にまたがり人材育成の好循環を生み出せるのは、国際都市・東京ならでは、と考えているところでございます。

小池: 東京都政について申し上げると、今に連なる指導者の中には、大正時代に当時の東京市の第7代市長を務めた、後藤新平という有名な政治家がおられます。
後藤新平は人材育成に大変注力され、人に関する名言もいくつも残されました。私もまさに都市の発展に不可欠なのは「人」である、と共感しています。
個々の力を高め、引き出す、「一人ひとりが主役になる東京」をめざし、今後もさまざまな取り組みを進めてまいります。

小林: ありがとうございます。知事のこれからのご活躍とご健勝を、心より応援しております。【了】


特別鼎談出席者(左から松澤氏・小池氏・小林氏)
▼ プロフィール

小池百合子(こいけ ゆりこ)
1952年 芦屋市生まれ。1971年 関西学院大学社会学部中退。1976年 カイロ大学文学部社会学科卒業。1977年 アラビア語通訳・アラビア語講師として活躍。1978年 日本テレビ特別番組「カダフィ書記長・アラファトPLO議長会見」コーディネーター、インタビュアーを務める。1979年~1985年「竹村健一の世相講談」(日本テレビ)アシスタントキャスター。1988年~1992年「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)初代キャスター。1992年 参議院議員(1期)。1993年 衆議院議員(以降8期連続当選)。2003年 環境大臣。2004年 環境大臣再任・内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当)。2006年 内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)。2007年 防衛大臣。2010年 自由民主党総務会長。2016年 東京都知事、現在2期目。

松澤建(まつざわ けん)
1938年 東京都生まれ。1960年 日本火災海上保険株式会社に入社。横浜支店長・本店営業第四部長などを経て、1998年 日本火災海上保険株式会社代表取締役社長に就任。2001年 損保業界再編の先陣を切る形で、同社と興亜火災海上保険株式会社との合併を実現させ、日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長に就任する。2007年 同社取締役会長に就任。2003年には社団法人日本損害保険協会会長も務める。2005年〜2010年 母校の学校法人青山学院の第15代理事長を務める。2011年2月 民間外交推進協会(FEC)理事長に就任。2013年6月 全国警察官友の会会長に就任。

小林光俊(こばやし みつとし)
1943年 富山県生まれ。1967年 株式会社日本マーケティング教育センター入社。1971年 みき書房設立に参加、発行人と出版局長を兼務。1982年 学校法人情報学園を設立し日本ジャーナリスト専門学校を設置。1984年 日本児童教育専門学校を設置、校長に就任。1986年 学校法人敬心学園を設立、日本福祉教育専門学校を設置。理事長・校長に就任。1996年 社会福祉法人敬心福祉会理事長に就任。学校法人敬心学園に日本リハビリテーション専門学校を設置。学校法人情報学園に日本医学柔整鍼灸専門学校を設置。2008年 公益社団法人東京都専修学校各種学校協会会長(3期6年)、2012年 全国専修学校各種学校総連合会会長(3期6年)を歴任、2013年 学校法人情報学園を学校法人敬心学園に合併。 2020年 学校法人敬心学園に東京保健医療専門職大学を設置。一般社団法人外国人留学生高等教育協会代表理事、全国専修学校各種学校総連合会顧問。