【特別座談会】ウィズコロナ時代の展望――高等教育の連携とグローバル化を考える

新型コロナウイルス感染症収束の見通しが不透明である中、「ウイズコロナ時代」を意識した生活様式の変化に伴い、社会経済の仕組、そして教育分野も、様々な対応を迫られています。

これを受け、当会は令和2年(2020年)10月8日、緊急特別座談会 第2弾を開催しました。

海外留学や共同研究等のグローバル化が進む高等教育機関には今後、いかなる取組が求められるか。

義家弘介衆議院議員をお招きし、私立大学・専門学校の関係者と共に、高等教育の連携とグローバル化を巡るウィズコロナ時代の展望について議論していただきました。

義家弘介(衆議院法務委員会委員長、前法務副大臣、元文部科学副大臣)
谷岡一郎(日本私立大学協会副会長・関西支部長・国際交流委員会担当理事、大阪商業大学理事長・学長)
小林光俊[司会](一般社団法人外国人留学生高等教育協会代表理事、全国専修学校各種学校総連合会顧問、独立行政法人日本学生支援機構運営評議会委員、学校法人敬心学園理事長)

水際対策は日本が最も厳格、問われるネット授業の中身

当日の様子(左から谷岡氏・義家氏・小林氏)

小林光俊(以下「小林」): 本日はお時間を頂戴し、ありがとうございます。
最初に、新型コロナウイルスのパンデミックが与えた影響と政策課題について、2015~2016年に文部科学副大臣として様々な教育政策に当られ、また直近まで法務副大臣としてコロナ禍中で留学生を含む出入国や在留管理等を指導された義家先生から、広くお話を頂戴します。

義家弘介(以下「義家」): 新型コロナウイルスの発生・感染拡大から緊急事態宣言の発出、さらにその緩和に到る9月までの約1年間、私は法務省の副大臣職にありました。
そこで、出入国や在留管理を所管する法務省で、入国制限や渡航禁止等、まさにこの時期の国際的な動きに最前線で向き合っていました。


義家弘介氏

世界的に見ると、感染防止の水際対策は、日本が最も厳格です。
現時点のガイドラインでも、外国人が本国を出て日本に渡航する際、出国手続までに検査および陰性の証明書が必要で、その上で日本の空港検疫所等で再び検査を受けるダブルチェックが義務づけられています。
結果判明まで入国を待機、さらに陰性でも2週間は不要不急の外出を避ける等の自粛が求められ、場合によって健康確認の対象になる等、かなり入念な対策です(10月末現在)

その一方で、他国を見ると、例えば私の息子が留学しているカナダでは、PCR検査自体があまり行われていないようです。
国民皆保険制度の国でないため、検査を一律に強制するのは難しく、実施する地域や病院もあれば、そうでない所もあります。
日本からカナダに行く場合も、出国時・入国時の検査を求めない代りに、2週間は完全隔離という対策を講じています。
これは、アメリカ等も同じです。

そして、この水際対策における世界の足並みの乱れは、高等教育にも影響を及しています。
外国人留学生について言えば、アメリカを始めとしてニュージーランド・オーストラリア等の先進国にとり、留学生は学費獲得の非常に大きなボリュームゾーンになっています。
留学生が戻らねば学費収入も見込めないため、これらの国では逸早く対面授業を再開しました。
日本はこの10月1日から漸く留学生の入国制限を緩和しましたが、その慎重な対応の背景の一つには、留学生と日本人学生の学費が基本的に同額、国費留学であればゼロ等の制度の違いもあるかと思います。
留学生の受入れ促進は日本でも国策ですが、他国のように学費獲得の面から急ぐという観点は希薄です。

高等教育全体では、パンデミックを機に、大学を中心にして世界的にネット授業が急速に進みました。
「ウイズコロナ」が続く以上、ネット授業の併用は今後も不可欠ですが、そこで重要な課題が2つあります。
一つは、ネット授業をどう現実に対応させていくかという点です。
学問を巨大な山に喩えると、その形状や棲息する動植物、危い場所等の知識は、ネット授業でも得られるでしょう。
しかし、実際に登ることがないと、“征服”は出来ません。
また、基礎研究等で実験や検査が欠かせない理系と、各々の興味や探求心において学究する文系、あるいは職業教育という実学中心の専門学校では、そもそも同じ土俵で(ネット授業をどう構築するか等の)議論を行うことさえ難しいと言えます。
この課題をどう乗り越えてゆくかが、ウイズコロナにおいて極めて重要な視点と思います。

もう一つは、高等教育のグローバル化です。
米・スタンフォード大学等では、以前からネット授業をアジア地域に発信する等の取組を進めていますが、今回のコロナ禍でアカデミックな教育が一気に世界に広がったのは確かです。
未来のために、この機運を、プロフェッショナル教育も含め、世界の高等教育の潮流として益々盛り上げてゆかねばなりません。
ネット授業によって遠隔でも高等教育を受けられる環境がある程度整ったことを踏まえ、各教育機関ではネット授業と対面授業をどう組み合せれば学生をしっかりと育成できるか、すなわちハイブリッド授業への取組も今問われている課題と思います。
その上で、日本の高等教育機関で学ぶ優位性を発信することが求められています。

留学生確保の見通し厳しく、対面授業は徐々に再開

小林: ウイズコロナの状況下で、日本と諸外国の留学生政策における水際対策の違い、導入が進むネット授業の課題、さらに高等教育の国際化の展望まで、義家先生に広くお話を頂戴しました。
これを踏まえ、日本の私立大学の現状等について、谷岡先生にお伺いします。

谷岡一郎(以下「谷岡」): 日本私立大学協会の会員校には、小規模校でも外国人留学生を受け入れる大学が多く、目立つところでは学生定員300名のうち100名、つまり3分の1を留学生が占める大学もあります。
例年はそのうち70名程が日本の日本語学校を経て入学しますが、今年度は日本語学校の新入生の殆どが未だに来日できず、学校に生徒がいない状況です。
10月に入国制限が緩和されましたが、それまでに入学辞退も相次いでいます。
そうすると、大学では、来年はまだしも再来年(2022年)の留学生確保はかなり厳しい状況です。
もともと定員割れの危機にあったところを留学生の受入れによって何とか踏み止まっている大学は今後、競争力がかなり落ちるものと危惧しています。
加えて、留学生のために整えた設備や機器も維持費が掛る等、様々な悪循環が経営をじわじわと圧迫しているのが現状です。
協会としても、支援に苦慮しているところです。


谷岡一郎氏

次に、日本語学校の留学生について、最近の動きをご説明します。
今年4月の留学生は概ね、昨年11月に入管に留学申請して2月終り頃に許可を受けています。
大体その1年前から、どの国に留学するかを経費支弁等も含めて検討・準備を進めた上で申請するため、4月入学予定者にとってコロナ禍は想定外でした。
私たちも当初、4月入学生は遅くても6~7月までには入国できるだろうとの予測で動いていましたが、思いの外に影響は大きく、それが不可能になりました。

その一方で、(協会の)国際交流委員長の立場から言えば、今回のコロナ禍は各々の私学が改めて国際交流の在り方を考える契機になったという点で、プラス面も必ずあると受け止めています。
建学の精神や教育理念を反映したアドミッション・ポリシーによって留学生の受入れ方針を決める、場合によっては一切受け入れないという決断が出来るのも、私学の独自性です。

小林: 専門学校にも留学生が多く学んでいる分野や学科があり、殆どの学生が日本語学校からの進学ですから、大学と同様、来年・再来年の留学生確保について大変厳しい状況が予想されます。
さらに、現時点で専門学校に学ぶ留学生も外国人特有の苦しい状況にあります。
私は医療福祉系の専門学校を経営していますが、特に介護福祉士の養成学科等に留学生が多く、定員のほぼ半数に達しています。
彼らの多くは、生活費等をアルバイトで賄っているものの、今年はコロナ禍の影響で軒並みにアルバイトが出来ず、また通常の授業を受けられないことにも、大きな不安を抱えていました。
そのような学科では可能な限り、後期からリアルタイムの授業を再開し、教職員もフォローに努める等、何とか不安を解消できるように取り組んでいます。
谷岡先生の大学(大阪商業大学)では現在、どのような授業形式を採られていますか。

谷岡: 本学は人文科学系の大学ですから、結構早い時期に決断し、後期授業の大半は対面で実施しています。
と言うのも、大学は、単に知識を得る所でなく、先生との血の通った交流、クラブ活動等も含めた友人づくり等、様々な人間関係の中で揉まれながら成長し、社会に通用する人材を育成する場所であるべきという自負があるからです。
そのような人材を育てられないのは教育の失敗であると考え、学長として、いかなることがあっても後期には対面授業を実施すると言明しました。
教室は換気を徹底し、通常の半分の学生を入替え制で、また90分授業のうち3分の2は会話を禁じています。
前期は、国の要請に従わざるを得なかったため、やむなくオンライン授業で対応しました。

小林: 私どもの学校も前期はオンライン授業に切り替えざるを得ませんでしたが、実学が中心である専門学校はやはり実践的な対面授業が基本です。
特にリアルで顔合せさえ出来ない新入生からは、友人関係等も含めて学校生活への不安の声が出てきたため、5月の連休明けには1年生および卒業年次の対面授業を一部再開しました。
従来通りでなく、例えば、クラスの半分の学生が直に授業を受け、もう半分の学生は別の教室でそれをZoomで聴講するというような形です。
後期についても、オンライン授業と対面授業を組合せつつ、対面授業を少しづつ増やすというハイブリッド型で進めています。
殆どの専門学校がこのような取組をしていると聞いています。

留学希望者は世界を視野に、留学支援は「鳥の目」で

小林: 高等教育の国際化というテーマでは、グローバルなハイヤーエデュケーション時代において、やはり外国人留学生の動向が関心事です。
日本では、優秀な外国人留学生を受け入れ、かつ日本での就職を地方も含めて幅広く支援する、つまりダイバーシティ環境において地域の新たな文化を創造できる人材養成を進めねば、我が国自体の活性化も望めないと考えています。
その辺りについて、義家先生はどのような見解をお持ちですか。

義家: 今、留学を考える若者の多くは世界を見ています。
どの国に留学すれば、最も親切で暮し易く、かつ自分の未来のインセンティブになる教育を受けられるか、情報を集めて冷静に判断しています。

先程も申しましたが、多くの先進国にとり、留学生の学費は自国学生への奨学金捻出の財源でもあります。
優秀であるが経済的に厳しい学生に高等教育を受けるチャンスを与えるため、いかに多くの高額学費を納めてくれる留学生を受け入れるか。
コロナ禍で更に切迫感が募り、アメリカでは、これまで政策によって受入れを抑制していた国に対しても、うやむやになりました。
余談ですが、カナダでは、これにより、抑制国出身の留学生が続々とアメリカの学校に転校しているそうです。
つまり、彼らは本来、アメリカに留学したかったのです。

その一方で、日本の高等教育機関の学費は一律同額ですから、ここをもっと(留学先選びの)優位性として発信するべきです。
その反面、諸外国の殆どでは、学生寮があり、コロナ禍に伴う休校の寮費が免除されましたが、日本では、アパート暮しが多く、休校でも家賃負担が伸し掛ります。
コロナ禍というピンチはむしろ、このような環境上の課題を改善するのと共に、学費は言うまでもなく、日本の高等教育機関で習得できる知識やスキル、将来の活躍可能性等の学びの魅力を世界の若者に発信するチャンスという気がします。

谷岡: 特に学費は、世界でもアジア圏の留学生にとって魅力でしょう。
ただ、日本の国公立大学・私立大学の括りで考えると、私学は費用面で国公立大学に到底太刀打ちできないのが苦しいところです。
ともあれ、日本は、財源目的で留学生政策を推進する国でなく、また私学は建学の精神に基づく特色ある教育が旗印ですから、日本私立大学協会としても原則的に各会員校の方針に委ねていますが、国際交流委員会としては大枠の考え方を次のように示しています。
「日本は戦後、フルブライトを始めとする数々の奨学金留学制度によって(欧米先進国に)日本のリーダー達を育ててもらった。今度は私たちがアジアを支援する形で恩返しする番である」と。


小林光俊氏

小林: 全く同感です。
アジアの中で日本が先駆けて先進国になったのは、近代化を進める過程で多くの若者が欧米に留学し、様々な知見を持ち帰って活かしたことも要因の一つです。
今後は日本がその立場になってアジアを応援してゆかねばなりません。

義家: 政治家としてアジアを外遊して印象的であったのは、例えばカンボジアでは、王立大学も含めて多くの大学の学長が日本留学を経験されていたことです。
ポル・ポト政権時代に国にいた知識階級の大半が粛清されたことで、当時は留学で国外にいた若者が現在はリーダーになっているのです。
そのような学長の方々と食事を共にした時、皆さんしみじみと「日本の御蔭でこの国の未来に今、貢献できている。日本から与えられた恩恵を語り継ぐのは私たちの使命」と語っておられました。
コロナ禍による学校経営の危機への対処も当然重要ですが、そのような“虫の目”と同時に、アジア全体の中でどのように人を育て、その存在感を世界に示すかという“鳥の目”の視座に立つことも大切です。

小林: 仰る通りです。
特に日本は、世界一の長寿国でもありますから、ベトナムやインドネシアを始めとする東南アジア諸国から、将来のモデルケースとして職業教育の中でも介護分野を学びたいというニーズがかなり高いのです。
本校でも、留学生の受入れは言うまでもなく、生活支援にも力を入れていますが、そこで現在進んでいるのが企業連携です。
連携先の企業が運営する老人ホーム等で、留学生は有償インターンシップという形で法定のアルバイト時間内で働きます。
学生には、生活費を賄える他、早くから介護現場を知り、実践力を磨けることがメリットです。
卒業後は日本で就職し、経験を積んだ上で帰国して起業するなり業界のリーダーになるなりして母国に貢献する――そのようなビジョンを描く留学生を支援するために、こうした企業連携が重要です。
職業教育においても、日本はアジアのハブ機能を果すべきと考えており、実際にそのような取組が進んでいることも、ぜひ知っていただきたいと思います。

高等教育の流動化に伴い、学びの分野のブランド化を

義家: 「連携」について申し上げると、コロナ禍で苦しむ学生を支援するためには、特別奨学金の給付等、地域の行政機関等との連携も大切です。
大学・専門学校を含めて私学の独自性はもちろん頼もしく感じますが、行政としては全部お任せするというわけにゆきません。
現時点ではまづ、学業を断念させないよう、学生に対する支援に力を入れています。


左から谷岡氏・義家氏・小林氏

その一方で、世界的には、高等教育機関のグローバル連携もかなり進むと見ています。
特に単位互換によって一定の成果とスキルを相互に認定することで、例えば同じ大学で4年間学ぶのでなく、意欲と能力のある学生は自分にとってステップアップになる教育を求めて学ぶ場所を変える――そうした動きが広がると思います。
つまり、高等教育の流動化です。
欧米では既に当り前ですが、それは、大学名でなく、「この大学の知名度は低いが、この学部・学科の研究はすごい」等の形で“ブランドの細分化”が進んでいるからです。

谷岡: 日本は大学名がブランドになりがちですからね。
そうでなく、学部・学科の優位性が知られるようになれば、ブランド力の低い私大も留学生に訴求できるかもしれません。
ぜひ国際的な広報活動等のご協力をいただきたいところです。

先程お話に出た環太平洋アジアの連携について言えば、この地域の大学間の単位互換の普及等により、学生等の交流を推進するUMAP(University Mobility in Asia and the Pacific「アジア太平洋大学交流機構」)が1991年に発足し、日本も最初から参加しています。
この5年間は東洋大学がヘッドクォーター(国際事務局)を務めていますが、あまり知られていないのが課題です。
この周知もお願いしたいと思います。

小林: その意味では、日本の高等教育機関も、もっと“攻めの姿勢”になるべきですね。
私は5年前にイギリスのオックスフォード大学とロンドン大学を視察しました。
両大学共に錚々たる教授陣を揃えており、世界中の大学から派遣要請があるそうですが、「唯一、日本の大学からは問合せさえ殆どない」と語っておられたのが印象的でした。
両大学を含む世界の大学では、職員も含めて優秀なスタッフを世界中からいかに招聘するか、そして優れた学生にいかに来てもらうか――この点にかなりの精力を注いでいます。
即断即決のスピード感も相当なものです。
日本は、縦割りの組織や決済の仕組等、色々と難しい問題がありますが、やはりそれを乗り越えて世界の若者に訴求するに足る魅力を構築せねば、優秀な留学生を獲得できません。

もう一つ、欧米の大学では、社会人の学び直しについて自由な制度があります。
日本では、再就職に向けた学び直しは実践的な職業教育を行う専門学校が主に担っており、昨年から専門職大学も開学しましたが、高等教育の国際化の中で学び直しの促進についても更なる理解と支援が必要と思います。

義家: 同感です。
私たちは今、日本人の出生数が80万人を下回る時代を生きています。
高等教育は言うまでもなく、後期中等教育も含め、各教育機関は、日本人、そして世界の若者から選ばれるアカデミック・ポリシーをしっかりと掲げずには生き残れません。
国としても、日本の教育の魅力発信について様々に支援してゆく所存です。

高等教育における国際競争について言えば、日本は実は地政学的に優位です。
と言うのも、世界の次の成長センターは、間違いなく東南アジアであるからです。
東南アジア諸国の殆どは親日国で、経済的な結び付きが極めて大きいことも有利です。
そのようなアジアの優秀な若者に「日本は経済も光っているが、一番に光っているのは人づくりです」というメッセージをいかに送っていくか――これは、高等教育機関と行政の連携を踏まえた上での留学生政策の構築、つまり政府のミッションと思います。
世界の学生は言うまでもなく、教職員の招聘も含めた様々な施策等、各機関が連携・協力しながら“攻めの姿勢”で向うことが今求められています。【了】


座談会出席者(左から小出秀文氏(日本私立大学協会 常務理事)・谷岡氏・義家氏・有我氏(当会事務局長)