【特別座談会】「アフターコロナ」のあるべき留学生対応を考える

新型コロナウィルスによる情勢変化は、我が国の高等教育にも大きな影響を与えています。

特に外国人の出入国が制限されたことで、従来積極的に留学生を受け入れてきた各教育機関は難しい対応を迫られ、経営面への打撃も心配されています。

これを受け、当会は令和2年(2020年)6月11日、『専門学校新聞』の協力を得て緊急特別座談会を開催しました。

そこでは、外国人留学生受入れの最前線にある日本語学校をはじめ、その進学先である専門学校や大学、そして外国人材の労働力を必要とする産業界の関係者に、現状の分析および “アフターコロナ” を踏まえた今後の展望について議論していただきました。

池田輝司(公益財団法人日本国際教育支援協会専務理事)
山中祥弘(公益社団法人東京都専修学校各種学校協会会長、公益社団法人ベトナム協会代表理事、学校法人メイ・ウシヤマ学園理事長)
吉岡正毅(一般社団法人全国各種学校日本語教育協会理事長、一般社団法人全国日本語教師養成協議会代表理事、学校法人吉岡教育学園理事長)
小林光俊[司会](一般社団法人外国人留学生高等教育協会代表理事、全国専修学校各種学校総連合会顧問、学校法人敬心学園理事長)

入国審査の厳格化により、コロナ禍以前から留学生減少の兆し

当日の様子(前列左から山中氏・吉岡氏・有我氏(当会事務局長)・池田氏・小林氏)

小林光俊(以下「小林」): 新型コロナウィルスの世界的流行は、社会経済や教育をはじめ、各方面に深刻な打撃をもたらしました。
緊急事態宣言は解除されたものの先行きは依然として不透明で、“アフターコロナ” と言うには些か早い状況です。
しかし、私たち教育機関の関係者はここで一度、コロナ禍によって状況が一変した外国人留学生の問題を整理し、コロナ禍以降の対応を考える必要があるかと存じます。

まず、コロナ禍の以前と以後で留学生の動向はどう変わるか。
最初に、文部科学省で留学生を担当された経験がおありで、千葉大学の事務局長も務められ、現在は日本語能力試験機関でもある公益財団法人日本国際教育支援協会の専務理事として学生支援、とりわけ留学生支援について活動されている池田先生に、全体の状況をお話しいただきたいと思います。

池田輝司(以下「池田」): 仰る通り、今はまだコロナ危機の真っ只中で、その影響も今後どこまで及ぶかの先行きを全く読めない状況です。
ただ、どうしてもコロナ禍による影響のみに目に行きがちですが、実は外国人留学生の受入れ状況はコロナ禍以前から変化が見られていました。
その点を含め、まず日本における留学生の受入れ状況を概括したいと思います。


池田輝司氏

お配りした資料の中に、昭和53年からの外国人留学生数の推移を折れ線グラフで表したものがあります。
単純な上昇線でなく凸凹が幾つかあり、その最初の波は昭和58年です。
この年は当時の中曽根内閣によって「留学生10万人計画」が提唱された年で、ここが日本の留学生受入れのスタートラインとよく言われます。
この時に、厳密に言えば翌年の昭和59年から施行された日本語学校の入国手続きの簡素化も併せ、留学生受入れが国家施策として始まりました。
ここから平成5年まで留学生数はずっと右肩上がりで推移しましたが、その後は暫く低迷期が続き、平成11年から再び急増しました。
平成17年からまた短い低迷期を迎えましたが、再び伸び続け、平成20年には「留学生30万人計画」が打ち出されました。
実は、平成23年の東日本大震災の影響で留学生が一挙に落ち込んだ年がありましたが、数字上あまり目立たなかったのは、在留資格「就学」が「留学」に一本化され、留学生数に就学生数が組み込まれたからです。
しかし、実態はかなり深刻で、特に中国と韓国の留学生数が激減しました。

ところが、それを超えると今まで考えられなかったような、コロナ禍に絡めると “オーバーシュート” と表現できる程の急増期が訪れました。
この立役者は、ベトナムを筆頭に、ネパールやインドネシアなどの東南アジア諸国です。
これにより、中国・韓国が大半を占めていたそれまでのシェアが大きく変わりました。
国籍的にも多様な留学生を受け入れるようになったのです。

纏めますと、日本の留学生政策が本格的に始まった昭和58年から今申し上げた時点まで、留学生数の推移には3度の低迷期がありました。
そして、実は、今回のコロナウイルス流行の前から4度目の兆しが表れているのです。
日本学生支援機構が発表した令和元年5月1日現在の留学生数は31万2214人で、平成30年の同時期と比較すると1万3234人増加しています。
在籍機関別では、高等教育機関が22万8403人、日本語教育機関が8万3811人です。
しかし、前年比で見ると、日本語教育機関は6000人以上のマイナスで、既に “第四波” が訪れています。
自動車に喩えると、留学生全体では赤信号点滅に備えてポンピングブレーキが踏み込まれている状態ですが、日本語教育機関には急ブレーキが掛っているのは明らかです。
新聞報道等では昨年の時点で、既に留学生数は頭打ちと伝えられています。

この減少の背景は偏に、ベトナム・ネパール等の様々な国の留学生の入国制限を厳格化したことです。ご存じのように、これらの国では日本語能力証明書の偽造問題があり、その一方で留学後も東京福祉大学をはじめとする在留管理の不備が発覚するなど、入国管理上看過できない問題が幾つか起こったこともあり、法務省としては当然、不法残留リスク回避のために進めざるを得ない政策です。今年2月9日の日経新聞一面には、「留学生在留審査 厳格に」という見出しで、4月以降に日本留学を希望する外国人審査を厳格化することが報じられました。
具体的には、それまでの入国審査厳格国7箇国から中国を外し、ベトナム・ネパール・スリランカ・バングラデシュ・ミャンマー・モンゴルはそのまま、さらに今後入国が考えられる国を含めてホワイトリストとそれ以外という制度にすることで、入国管理を厳格化しようということになりました。
これは、「4月以降」と言いながら、出入国在留管理庁(以下「入管」)では既に昨年から始まっている動きです。
この傾向が留学生受入れ数に影響したと見ています。

日本語学校は既にブレーキを踏まれている状態だったのに、今回のコロナ禍によって道路さえ遮断されました。
入国管理の厳格化とコロナウイルス対策は本来別問題ですが、コロナ禍の影響によって厳格化の流れがどうなるか――個人的にはそれ最も懸念しています。
実際、現時点では、新聞情報だけですが、入国制限の緩和の動きも出てきているようです。

さらに言うと、5月、中国の習近平国家主席と韓国の文在寅大統領が電話協議で「直接人的交流」の早期回復を図るという話が報道されました。
実際、6月1日から重要なビジネスや物流に関わる技術者の入国を迅速にするため、「ファストトラック」という制度を相互に設けています。
中国はシンガポールともファストトラック制度を進めており、これによって人的交流が一気に活性化しています。
中国・韓国は日本にもファストトラック制度を申し入れていますが、相手国の保健衛生や審査の体制、政治的問題等の諸事情があって簡単には了解できない状況です。
それより、当面急がれるのはベトナム・オーストラリア等4箇国との交渉で、これは既に外務大臣が交渉に入っているため、早晩実現する見込みです。
ただし、これはあくまで、企業関係者や専門的人材、所謂ビジネスニーズから緩和しようという動きです。

また、確たる情報ではありませんが、技能実習生についても、農家が困窮していることから、早期に対応するべきという話もあります。
いづれにせよ、経済復興とリンクさせる人的交流の動きは、少し加速すると見ています。

ビジネスの次は留学・観光が順番として妥当ですが、今の時期に短期的な優先順位を付けようとすると、行政判断として経済復興を急ぐ余り、留学生を飛ばして観光になりかねません。
そうなると辛い話です。
長期的に見ても、この時期に留学生受入れについて本腰を入れて考えてもらわないと、将来の日本の経済や教育が大きなダメージを受けることになります。
我が国の国際化や教育の活性化、そして就労を通した日系企業のグローバル化や雇用の問題など、様々な突破口になるはずの留学生の受入れをこの時期にどこまで短期的に折りこめるか――行政として1つの大きな課題でないかと思います。

入国制限の “第一陣” に留学生も加えるべき

小林: 池田先生からは、留学生の受入れ推移や入国審査などの行政の問題、今後の課題まで含めて全体的なお話をいただきました。
これを踏まえ、留学生を受け入れる立場として、まず壊滅的な状況とされる日本語学校の現状について、全国各種学校日本語教育協会理事長および全国日本語教師養成協議会代表理事を務める吉岡先生に伺いたいと思います。

吉岡正毅(以下「吉岡」): 日本語学校の留学生について、最近の動きをご説明します。
今年4月の留学生は概ね、昨年11月に入管に留学申請して2月終り頃に許可を受けています。
大体その1年前から、どの国に留学するかを経費支弁等も含めて検討・準備を進めた上で申請するため、4月入学予定者にとってコロナ禍は想定外でした。
私たちも当初、4月入学生は遅くても6~7月までには入国できるだろうとの予測で動いていましたが、思いのほか影響は大きく、それが不可能になりました。


吉岡正毅氏

また、4月入学生は2月に在留資格認定証が発行されますが、この有効期間は3箇月であるため、5月に切れてしまいます。
そこで、4月半ばに入管に3箇月の期間延長を申請し、6箇月にしてもらいました――すなわち8月までですが、今の状況ではそれも怪しそうです。
池田先生も言われた通り、新聞報道に拠れば、入国の “第一陣” はビジネス関係者で、それも1日250人程です。
そうすると、“第二陣” としての留学生は早くても9月です。
入国許可が下りてから航空券を購入すると10月にも間に合わないかもしれず、在留資格認定書が再び期限切れになります。
そのため引き続き3~4箇月の延長を申請しに入管に行き、「前向きに検討する」との回答を得ましたが、その一方で技能実習生等の調整もあるとのことで確実な回答は暫く保留になりました。
これが、日本語学校における第一の問題です。

2番目の問題は、一時帰国した日本語学校生がかなりの数いますが、彼らが再入国できず、ビザもそろそろ切れそうということです。
これも、在留期間満了日以降の再入国を可能にする措置をお願いしました。

3番目は、入国制限緩和による “第一陣” の中に留学生も加えることです。
ビジネス関係者等「必要不可欠な人材」から順次緩和するとのことですが、留学生は我が国の発展に大いに寄与するだけでなく、母国と日本の架け橋を担うなど、短期的にも長期的にも我が国に非常に貢献する存在です。
また、私たちは当初、「ビジネス関係者」とは在留資格「高度専門職」等の専門人材を言うと認識していましたが、その中には「技能実習」や「特定技能」も入っています。
これが短期的な必要性に迫られた柔軟な措置であれば、やはり留学生も “第一陣” に加えてほしいと要望しています。

4番目は、留学生の受入れ回復に向けた審査の簡素化です。
池田先生のお話にもありましたが、この半年ほど在留資格申請の審査は厳しくなっており、特にベトナム・ネパール・スリランカ・ミャンマー・カンボジア・インドネシア・モンゴルのハードルが高くなりました。
審査の簡素化については、まず在留資格認定書交付申請における提出資料の簡素化をお願いしています。
昨年の10月入学生以降、留学資金の形成過程の詳細な説明や立証資料が必要で、例えば「3年間の資産形成過程の証明」が求められますが、証明できる預金通帳を使う習慣があまりない国もあり、なかなか難しいところです。
また、特に欧米人の場合、通帳開示などはプライバシーを晒け出すような感覚に近く、「人権侵害でないか」と憤ってそれだけで日本留学を取り止めてしまう学生もいます。
こんなことをしていると、優秀な人材ほど日本に来なくなってしまいます。
これについて、法務省からは「資金形成過程における適当な指標がないだけだから、各々の国でそれに代わるものを見付けてほしい」と言われました。
そうであれば、これまで通り銀行残高証明書等でよいのではないでしょうか。
いづれにせよ、現時点では「早急に結論を出そう」という段階に留まっています。

さらに、母国で大学を卒業した留学生についても、日本語能力の証明が求められるなど、審査基準の考え方に違いも現れています。
大学卒は学習能力があるものとして評価するべきと思われます。

そもそも、共生社会を実現するためには日本語教育がどうしても必要として昨年、日本語教育推進法が成立しました。
そこでは、児童生徒や労働者への支援は記されているものの、留学生について「支援」という表現はなく、「質の向上と厳格化」が謳われています。
「質の向上」については日本語教師の国家資格について議論されていますが、「厳格化」については日本語学校で日本語能力がどの程度向上したかの指標を出すことが昨年の10月入学生から対象になりました。
適用は今年10月か来年3月ですが、コロナ時代の今、オンライン授業しか受講できない学生にそれを厳格に適用するのはいかがなものか、少なくても1年程度は待ってほしいと要望しています。

その他、現在困っているのは、7月入学生についても交付が保留になっていることです。
入管は「保留でも交付と同じ」という見解を示していますが、申請する立場には非常に不安です。
この状態が長く続くと、日本に行ける見通しが立たないから留学を取り止めようということになりかねません。
喫緊の4月生についても、私たちは今、オンライン教育を行ったり情報を提供したりして日本で学ぶ希望を持たせていますが、入国制限が10月以降もズレ込むと一気にキャンセルが増えるのでないかと懸念しています。

4月生、7月生、そして10月生も無理ということになれば、来年4月まで待たねばなりません。
日本語学校は留学生の学費だけで成り立っているため、収入が1年間ないというのは死活問題です――教職員の給与も校舎の賃料も重くのし掛かってきます。
今年12月時点で留学生の入国が軒並みに不可能になれば、日本語学校の3分の1程度は立ち行かなくなるのでないかと懸念され、そのような場合、長期間に亘って留学生政策や日本語教育政策に悪影響を与えてしまいます。
そのような意味でも、早期の留学生入国が求められます。

私たちは6つの日本語学校団体が連携した組織を持っているため、今後はそこで日本語学校に対するアンケートも行い、現在の在籍者・入学者の予想人数や退学可能性のある者の数などを把握しながら、今後あらゆる状況を想定して日本語学校の存続そのものについても調査を進めたいと考えています。

留学生を挫折させないために早急な支援策が必要

小林: 日本語学校の経営危機による影響は1~2年後、まさに私たち高等教育機関を直撃する共通の課題です。
専門学校を中心とする高等教育機関への影響について、東京都専修学校各種学校協会(以下「東専各」)会長であり、現在はベトナム協会代表理事も務められる他、自校で長年に亘って留学生を受け入れ、専門職大学院も運営されている山中先生に、現況や問題点についてお話しいただきたいと思います。

山中祥弘(以下「山中」): 人間に対する感染症であるコロナウィルスが今や経済・社会生活にまで “感染” しており、本当に深刻な状況と思います。
このような中で私たちはどうあるべきか――東専各はまず学生の状況に関するアンケートを実施し、東京都の専門学校生16万人のうち約6800人の回答を得ました。


山中祥弘氏

調査結果に拠れば、学費や生活費のためにアルバイトをする専門学校生は、日本人を含めて約76%とかなり高い数値です。
このうち、コロナ禍の影響でアルバイト先がなくなった、または見付からないという学生は約28%でした。
特にサービス業のアルバイトに従事する人が多いため、留学生は日本人学生と比較にならないほど不利益を被っていると推測されます。
自由回答の中には、恐らく留学生と思われる「同じ学生なのに日本人と差別されては困る」という主旨のコメントがありました――これは見逃せない意見です。

私どもが経営する専門学校は、戦前から長く留学生を受け入れています。
多くの留学生の中には、夢と希望を持って日本に留学したものの、差別に苦しんだり生活苦で挫折したりして途中で帰国された人もいます。
そんな彼らが帰国後どうなるかというと、反日運動に走るケースがままあります――実際に日本にいた経験があるゆえに説得力も充分です。
今回、留学生の救済が満足に行われないと、同じことが10年後・20年後に繰り返されるのでないか。
国はやはり、国家戦略を踏まえて外交政策として留学生問題を捉えるべきと思います。

また、私はベトナム協会に関わっていますが、ベトナム人留学生を不正に日本に送り込む事件はずっと以前から起こっていました。
犠牲者は、言うまでもなく留学生です。
それにも拘らず、事実上放置・黙認されてきたのは、これがどれほど留学生政策の障害になるかという行政の視点が欠けていたからです――それこそ問題と思います。
日本留学経験者の多くは帰国後、その国のリーダーになりうる人材であり、彼らが反日に傾けば、アジアの盟主としての日本が脅かされることになりかねません。
さらに言えば、日本はかつてのように留学対象国としての魅力を失っているという声もよく聞きます。
今回のコロナ禍を機に、国家戦略としての留学生政策に取り組むべきでないでしょうか。

1つの政策として提案したいのは、日本語の基礎教育をもっと現地で行うということです。
N3~N4レベルまでは日本の日本語教育機関と連携して現地で日本語教育をしっかりと行い、来日後は日本語教育機関が留学目的に沿った日本語教育や適切なキャリア支援を行った上で、高等教育機関や職業教育機関に進むという、言わば留学生における “将来設計プログラム” のスキームの中で、政府として戦略的に投資する仕組みを構築するべきです。

そして、次の戦略はアウトバウンドです。
留学生が日本の経済・文化を背負って母国の発展に貢献する――それが日本企業の進出とリンクするからです。
経済産業省も現在、製造業の海外展開からサービス業の海外展開にシフトしようとしています。
それには、どうしても日本のサービス業を学び体験した優秀な留学生が必要です。
現在は人手不足の観点から技能実習生が注目されていますが、単純労働は将来的に機械で代替できます。
しかし、人材不足はそうでありません。
人材を育てる私たち高等教育機関が優秀な留学生を受け入れるには、日本語教育機関のあり方などについて新しい仕組づくりが必要です。

吉岡: 実際、欧米などでは現地と留学先での “二段階日本語教育” が進んでいますが、日本の場合は少し事情が異なります。
文部科学省もこの20年、大学等に留学生の直接受入れを勧めていますが、20年前も今も高等教育機関の入学者の70%が日本の日本語学校経由という事実は変わりません。
その大きな理由は、現地での日本語教育の難しさにあり、特に非漢字圏の国はなかなかうまく行かないようです。


山中氏(左)と吉岡氏

そうなると、必要なのはやはり(日本の)日本語学校の強化です。
しかし、日本語教育機関には監督官庁がなく、国から情報も補助金も得られません。
今後は日本語教育推進法にある「日本語学校の厳格化と質の向上」や「日本語教育機関の類型化と適格性」に基づき、玉石混交の日本語学校を分類・整理した上で、適格性のある学校について必要な支援を要請してゆきたいと考えています。

介護福祉の留学生が急増、反面コロナ禍によって厳しさも一段と

小林: 私からは、介護福祉士教育と留学生についてお話しします。
平成28年に在留資格「介護」が創設され、養成校で2年以上学び、介護福祉士の国家資格を取得して働けば、半永久的に在留資格が与えられる制度が出来ました。
これにより、留学生は年々増え続けています。
日本介護福祉士養成施設協会(以下「介養協」)の会員校は現在375校ありますが、学生の26%が留学生です。
年度別では、平成27年(2015年)が96人、平成28年(2016年)が257人、平成29年(2017年)が591人、平成30年(2018年)が1142人、そして平成31年(2019年)が2037人で、ほぼ倍々で増加してきました。


小林光俊氏

また、留学生に活躍していただくために、介養協では、監督官庁の厚生労働省に要望を行い、幾つかの支援制度を得ています。
1つは「介護福祉士国家資格の資格取得を目指す外国人留学生の受入環境整備事業」で、介護施設等が外国人留学生に対して奨学金等を支援する際、国が総額の3分の1を助成する事業です。
介護施設でアルバイトをする留学生であれば日本語学校生も対象になり、月額の支援の他、入学準備金や就職支援金、また国家試験受験対策費用等が継続して支給されます。

さらに、「介護福祉士資格の取得を目指す留学生と受入介護施設等とのマッチング事業」として、外国人留学生の発掘、留学生に対する養成施設や介護施設等に関する情報提供、現地での合同説明会の開催等のマッチング支援も軌道に乗ってきていました。

ところが、そのようなタイミングでコロナ禍が起こり、来年以降は大変に厳しい状況になりそうです。
私の学校(日本福祉教育専門学校)でもデータを取っていますが、今年4月の介護福祉学科の入学生84人のうち50人、ほぼ60%が留学生です。
出身国はベトナム・中国・韓国が中心で、先程の入国管理の厳格化による影響と思われますが、今年度に限ってインドネシア・ネパール・スリランカからの学生はゼロです。

さて、様々な情報を踏まえて考えますと、留学生に有為の人材として活躍していただくためには、やはり日本語教育が要です。
日本語教育がうまく行かないと、思考力も育たず、可能性も潰してしまいます。
臨床心理士の中川郷子氏は新聞記事の中で、外国人児童への日本語教育が充分でないと日本語も母国語も一定の水準に達しない「ダブル・リミテッド」になると指摘しています。
彼女は、「魚を与えるのでなく、釣り方を教えるべき」という印象的な表現で、少子高齢化が進む日本では活力のある社会を維持するために、外国人児童が学び、力を発揮できるような制度を整えることが必要と語っています。
コロナ禍をきっかけに、このようなことを日本全体で自覚し、考える機会になればと思っています。

「就労」をベースにして日本の魅力を発信

小林: コロナ禍の影響によってeラーニングやオンライン授業などの遠隔教育が見直されています。
専門学校の遠隔教育について山中先生に伺います。

山中: 本校ではeラーニングの授業を20年に亘って行っていますが、今の時期は日本に戻れない留学生もいるため非常に役立っています。
日本語をある程度修得した学生には現地で学んだ科目もWEB経由で単位認定できないかと工夫し始めているところです。
日本にいなければ理解できない科目は、突き詰めれば実技です。
それ以外は柔軟に対応するなど、(コロナ禍は)グローバルな授業形態に切り替える好機でないかと前向きに捉えています。


小林氏(左)と山中氏

ただし、当面の問題は、日本語教育機関には一定期間しか在籍できないことです。
漢字圏出身の留学生と非漢字圏の留学生ではやはり日本語の習熟度も違いますし、さらに非漢字圏の学生の多くはアルバイトに時間を割かれがちで、学習時間の確保が難しいのが実情です。
大学も専門学校も現在、留学生に対する専門教育と日本語教育を並行している学校が多く、この部分を日本語学校に協力していただきたいくらいです。
そのように専門学校・大学と日本語学校の連携を進めることがむしろ、同時に留学生に新しい道を開くことに繋がるかと思います。
そして、それが定着すれば制度化してゆく――今はそのチャンスかもしれません。

小林: ありがとうございます。
最後に、今後の展望も含めた総括を池田先生にお願いします。

池田: 先生方の現状・窮状をお聞きしますと、弥縫策レベルではどうしようもないという気が致しました。
日本語学校の収入が丸1年途絶える状況になれば、余程の基礎体力がないと持ち堪えられません。
専門学校も、留学生のシェアから見るとダメージは深刻です。
また、専門学校は国の経常費補助を充分に受けられるわけでありませんし、日本語学校に到ってはゼロです。
喫緊の課題は当座の問題を解決することですが、そればかりに傾注していては根本的な解決に繋がりません。
これまで求められてきた “変化” と別次元の変化を考えねばならないという気がします。


池田氏(左)と小林氏

それにはやはり、学校現場の先生方に変化の手法を考えていただくのが重要かと思います。
短期的・中長期的な視点を保ちつつ、特に専門学校の場合は職業を中心とする経済活動・企業活動の復興のために、いま専門学校は何が出来るかという視点が非常に重要と思います。
日本語学校の場合、些か抽象的ですが、長期・短期の “ハイブリッド型の手” をいかに打てるかということが肝要です。
「今の現場に何が出来るか」という声もありましょうが、今回のお話を通してみると、やはりもう少し先を見据え、これまでと違う付加価値を模索するべきという印象を持ちました。

ベースになるのはやはり〈就労〉でしょう。
日本という国の魅力を世界に発信し、留学生に魅力ある国として日本を選んでもらうためには、今後どの国も経済が低迷することを考えれば、進路指導を含めた就労が鍵になります。
実際、資格外活動も含め、コンビニエンスストアにしても外食産業にしても、留学生のアルバイトなしにもはや成り立ちません。
「ここは “いの一番” に留学生を入れなければ」という時期が必ず来るはずです。
アフターコロナの経済復興に向け、留学生も日本人と同じ然るべき労働力として評価する目線が行政には必要です。
復興に直結した専門学校機能の強化、そして留学生全体の受入れ口である日本語学校の充実を本気で考えてもらわないと、日本留学の魅力は低下する一方です。
ポストコロナの日本の魅力をどこに持たせるかにより、専門学校・日本語学校の方向性は決まってくるのでないかと思います。【了】


座談会出席者(左から小林氏・池田氏・山中氏・吉岡氏・有我氏)