【教育シンポジウム】外国人の受入れ・多文化共生社会構築と高等教育の役割

▼ プログラム概要

日 時 2019年10月11日(金)13:15~
場 所 アルカディア市ヶ谷 私学会館
対 象 大学・専門学校・日本語教育機関・企業・関係団体等
内 容
開会挨拶 小林光俊(一般社団法人外国人留学生高等教育協会 代表理事)
来賓紹介
講 演 1
(13:30~14:10)
「誰一人置き去りにしない社会の実現へ~外国人の子供たちとの共生のために~
浮島智子(衆議院議員、公明党文部科学部会長、前文部科学副大臣、外国人の受入れ・共生のための教育推進検討チーム座長)
講 演 2
(14:15~14:55)
「留学生行政の現状と将来、高等教育機関の役割」
齋藤潔(文部科学省高等教育局 学生・留学生課 留学生交流室長)
シンポジウム
(15:00~16:30)
「外国人の受入れ・多文化共生社会構築と高等教育の役割」
齋藤潔・井上洋・岡本比呂志・長谷川恵一/近藤佐知彦(進行役)
主 催 一般社団法人外国人留学生高等教育協会
後 援 全国専修学校各種学校総連合会、公益社団法人北海道私立専修学校各種学校連合会、一般社団法人群馬県専修学校各種学校連合会、一般社団法人埼玉県専修学校各種学校協会、一般社団法人千葉県専修学校各種学校協会、公益社団法人東京都専修学校各種学校教会、一般社団法人新潟県専修学校各種学校協会、一般社団法人富山県専修学校各種学校連合会、一般社団法人山梨県専修学校各種学校協会、一般社団法人大阪府専修学校各種学校連合会、一般社団法人福岡県専修学校各種学校協会、一般社団法人宮崎県専修学校各種学校連合会、一般社団法人全国各種学校日本語教育協会、一般社団法人全国日本語教師養成協議会、一般社団法人応用日本語教育協会、一般社団法人国際人流振興協会、日本語教育情報プラットフォーム

▼ 講演・討議レポート

日本の未来のために、外国人も含めた、競争力の源泉になる多様な人材の育成を!

 令和元年(2019年)10月11日、私学会館(アルカディア市ヶ谷)において、一般社団法人外国人留学生高等教育協会(以下「外留協」)主催による教育シンポジウム「外国人の受入れ・多文化共生社会構築と高等教育の役割」が開催された。
 これは、全高等教育機関と企業経営者や業種別・規模別事業者団体等の横断的な連携を目指す同協会が、同年4月の出入国管理法(以下「入管法」)改正を受けて企画したものである。
 シンポジウムでは、文部科学省の留学生政策担当者や学校関係者・企業関係者によって外国人留学生受入れの今後の方向性に関する討議がなされ、大学・専門学校・日本語学校関係者や企業関係者等、約100人が参加した。

開会挨拶


外留協代表理事 小林光俊氏

 第1・2部に先立ち、外留協代表理事 小林光俊氏(学校法人敬心学園理事長)講演者・パネリスト紹介の後、開会挨拶を述べた。
 小林氏はそこで、安倍内閣総理大臣が第200回国会(臨時会、同年10月4日)における所信表明演説で《新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を、根本から見直していく必要があります》として変革の必要性を訴えたことに触れながら、「日本には、高等教育も含め、アジアの人材養成のハブ機能を果たしてゆく役割と責務がある。また、多様性のある日本の未来を創るためにも、外国人の人材育成や外国人留学生に対する様々な支援制度がますます重要になり、それを確立してゆく必要がある」と語った。そして、その実現こそ外留協の設立目的であると述べた。

第1部 講 演


衆議院議員(前文部科学副大臣)浮島智子氏

 第1部 講演では、まず、浮島智子氏(衆議院議員・前文部科学副大臣)「誰一人置き去りにしない社会の実現へ~外国人の子供たちとの共生のために~と題する講演を行った。
 浮島氏は、入管法改正を受けて昨年12月に閣議決定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の具体化のために設置された「外国人の受入れ・共生のための教育推進検討チーム」(文部科学省)の座長を務めた。同チームは、全国の小学校や専門学校・日本語学校等を視察しながら外国人児童の就学状況等を調査し、その報告書でその実態や日本語教育の現状を明らかにしたことで、マスコミ等で多く取り上げられている。
 同チームが主に検討した重点項目は、①「外国人児童生徒等への教育の充実」、②「外国人に対する日本語教育の充実」、③「留学生の国内就職促進・在籍管理の徹底」である。浮島氏は、①について、「不就学の可能性のある子供は約2万人いる」と指摘した上で、公立小中学校における日本語教育の教員確保のための予算を獲得するべく平成28年12月に財務省に自身で乗り込んだというエピソードを紹介しながら、その教育環境の充実に向けて今後も予算の確保に努めるとの考えを示した。そして、②について、「日本語教育の機会確保」「日本語教師の質の向上」「日本語教育機関の質の向上」の推進に積極的に取り組むと語った。
 また、今年6月の「日本語教育推進法」成立を受け、同年9月に「第1回 日本語教育推進会議」が開催されたことが報告された。
 さらに、多文化共生社会の構築に向けた取組として、外国人受入れ環境の整備だけでなく、東京オリンピック開催等を契機にしたホストタウンや日本人海外留学者の増加のための「トビタテ!留学JAPAN」の活動等についても紹介された。


文部科学省留学生交流室長 齋藤潔氏

 次に、齋藤潔氏(文部科学省高等教育局学生・留学生課留学生交流室長)「留学生行政の現状と将来、高等教育機関の役割」と題する講演を行い、留学生受入れの現状と今後の方針に関する文部科学省の考えと取組について報告した。
 齋藤氏はそこで、留学生数は2020年に「留学生30万人計画」の目標値をほぼ達成するが課題もあると指摘した上で、“ポスト留学生30万人計画”を見据えた留学生政策の今後の方向性について、「大学の国際化を実現する多様な留学生交流の推進」「留学生経験者ネットワークの拡大と可視化」「高度外国人人材としての定着の促進」を挙げた。そして、その具体的な取組として、「ツイニングプログラム等での海外大学との連携による戦略的な留学生交流の推進」「日本語準備教育(ファウンデーションコース)の積極活用」「産官学による就職促進の仕組の構築」「留学情報の一元化や海外リクルーティングの強化」等を行うと説明した。
 特に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(上述)でも言及された外国人留学生の就職支援について、現状35%の就職率を50%まで引き上げることを目標にした上で、「主要な受入れ12大学での留学生就職促進プログラムの実施」「企業と連携した留学生就職促進履修証明プログラム(仮称)の全国展開(約50校想定)」「各大学への留学生就職率等に関する情報開示の要請」「就職支援の取組や実際の就職状況に応じた奨学金の優先配分」「卒業後の日本就職等のキャリアパスを初めとした、魅力を発信する日本留学海外拠点連携推進事業の実施」等を挙げ、その方針を説明した。
 また、専門学校・大学における留学生の不法就労問題を受けた対策として、法務省出入国在留管理庁と連携して適切な在籍管理に取り組むと語った。その具体的な対応として、文部科学省は「留学生の在籍管理状況の迅速かつ正確な把握と指導の強化」「在籍管理の適性を欠く大学等に関する在留資格審査の厳格化」等を行うとし、その方針を説明した。

第2部 シンポジウム


左から、齋藤氏・井上氏・岡本氏・長谷川氏

 第2部 シンポジウムでは、5人の識者が「外国人の受入れ・多文化共生社会構築と高等教育の役割」について討議を行った。
 パネリストとして、齋藤潔氏(文部科学省高等教育局学生・留学生課留学生交流室長)井上洋氏(一般財団法人ダイバーシティ研究所参与)岡本比呂志氏(学校法人中央情報学園理事長)長谷川恵一氏(学校法人エール学園理事長)が登壇し、司会進行は近藤佐知彦氏(大阪大学国際教育交流センター教授)が務めた。

 近藤氏はパネリストに対し、次のような質問を投げ掛けた。

 入管法改正による外国人労働者受入れ解禁という大きな嵐が押し寄せる中、多文化共生社会の構築という課題について現在どのような問題意識を持っているか。
(以下、パネリスト敬称略)

齋藤: “ポスト留学生30万人計画”の作成に向け、政府として新たな留学生政策を推進するためには、現在の政治・社会環境において国民が納得できるロジックが求められよう。留学生受入れが教育現場に多様性のダイナミズムを生み出し、留学生が就職することで産業にも寄与することを明示できるべく、教育機関側も、スキルを持ち多様性のある学生を送り出せると説明する必要がある。その上での具体的な目標数への落し込みである。
 また、専門学校の卒業生が就職できない分野があるとの指摘について、例えば介護分野での取組のように、産業界と教育界が連携することで突破口が開かれる可能性はあるのでないかと見ている。文部科学省としても、その辺りを支援してゆきたい。

井上: 経団連で産業部門の担当を長年務め、外国人労働者受入れや大学の国際化・留学生問題の政策を担ってきた。その経験を踏まえて言うと、一番の懸念は日本の国際競争力の低下であった。1990年代に第1位であった日本は現在、第25位程度まで低下しており、危機感を覚えている。日本が成長する唯一の道は技術開発力であるため、経済政策として、マクロ政策だけでなく、人材に注目したミクロ政策が必要であろう。技術開発競争力の強化のためにも、その源泉になる留学生も含めた人材育成を、大学・専門学校等の高等教育機関と政府が共同して国家戦略として推進するべきである。
 また、日本留学の魅力は働きながら学べる点であるが、その一方で、アルバイト雇用における問題は雇用管理が適正に行われていない点である。これは、教育界だけで解決できない問題である。政府(厚生労働省)が労働許可書を発行し、それを学生が在籍する学校側が適正に管理すれば、現在多発している留学生失踪事件のような問題は起きないのでないか。例えば韓国のように、外国人労働者への雇用許可制度を導入するのはどうか。
 さらに、外国人への日本語教育について、オーストリア・ドイツ等の西欧の外国人受入れ先進国のように、共生社会の実現には、日本語だけでなく日本の法制度や生活習慣等も学べる場を、国が責任を持って提供するべきであろう。

岡本: 留学生受入れの基本理念を改めて考えることが重要である。留学生受入れの目的・使命は、マクロな視点から「教育研究・技術水準の向上のための専門職高度人材の育成」「国際交流推進のための知日家・親日家の育成」「日本の経済・社会の活性化のための国際競争力強化に資する国家戦略としての人材育成」の3点が挙げられる。この3つの視点から、留学生政策は推進されるべきである。
 留学生の就職率を35%から50%に引き上げるのが目標とのことであるが、JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)が公表したデータに拠れば、2018年の大学学部生の就職率は58.9%が実情で、専門学校生も36.8%が就職できている。より具体的な状況に応じた政策を推進するべきである。
 そして、「留学生30万人計画」は確かに数値的に達成されているが、高等教育の今後の在り方について、大学だけでなく、専門学校・日本語学校の声もしっかりと踏まえたグランドデザインが求められる。
 また、日本留学の魅力は、世界第3位の経済大国で、ノーベル賞受賞者がアメリカに次いで多い等、質の高い最先端の科学技術を学べる点であろう。その一方で、日本の大学の研究力は低下していると言われる。具体的には、世界で引用される論文数が2003年に第4位であったのが第9位まで落ちている。大学の質を高めることは産業界の科学技術力の向上に繋がり、それは延いては大学だけでなく専門学校への日本留学の増加に繋がるため、高等教育の質の高さの確保はオールジャパンで取り組むべき課題である。

長谷川: 地元の大阪ではこれまで、例えば自分が役員を務める大阪商工会議所で、留学生の就職活動の支援や、海外教育関係者への専門学校教育のPR活動等に取り組んできた。そして、大阪商工会議所や関西経済連合会と協力し、ASEANの大学と連携して優秀な外国人人材受入れのための活動にも取り組んできた。その経験から、受け入れた外国人が日本人と共生できるためにも、現地で一定レベルまでの日本語教育を実施することが重要と考えている。
 また、留学生の就職率を50%に引き上げるのが目標とのことであるが、現状では、専門学校の教育カリキュラムが合っていないとの理由でビザが発給されず就職できないというケースもある。就職率を上げるのであれば、より柔軟に対応した改善が求められるのでないか。
 さらに、新しい在留資格「特定技能」について、その位置づけが不明瞭であるため、高等教育機関で学ぶ「高度人材」との関連で「中間技能人材」という表現にしてほしいと政府に提案しているが、承認してもらえていないのが実情である。

 以上のような各パネリストの発言を受け、司会の近藤氏は「今回の討論に結論はないが、各々の立場の経験・知識からの意見が今後の産学官連携による共生社会実現に向けた議論の叩き台になる機会を提供できたのでないか」と述べ、外留協の今後の活動に期待を込めつつ、シンポジウムを締め括った。

閉会挨拶

 最後に、外留協理事 多忠貴氏(学校法人電子学園理事長)閉会挨拶を述べた。
 多氏はそこで、「外国人留学生に関する議論は各機関で個別に行われてきたのが実態であるが、当協会では今後、縦割りを排除して高等教育機関・日本語教育機関、そして産業界が一堂に会し、本日を皮切りに協会目的の達成に向けて事業を積極的に推進してゆきたい。その過程で、外国人留学生の在り様を見極め、追及してゆきたい」と今後の活動への抱負を述べ、多くの方による外留協への参加と協力を呼び掛けた。

▼ 登壇者プロフィール

浮島 智子 衆議院議員(公明党文部科学部会長)
前文部科学副大臣
外国人の受入れ・共生のための教育推進検討チーム座長
齋藤  潔 文部科学省 高等教育局 学生・留学生課 留学生交流室長
井上  洋 一般社団法人日本経済団体連合会 社会本部総合企画グループ長・産業第一本部長・社会広報本部長・教育スポーツ推進本部長(歴任)
一般財団法人ダイバーシティ研究所参与(現任)
株式会社日本政策投資銀行地域企画部スポーツ産業アドバイザー(現在)
文化庁地域日本語教育スタートアッププログラム事業シニアアドバイザー(現在)
内閣府国際青年育成交流事業オーストリア派遣団団長
岡本比呂志 学校法人中央情報学園理事長
一般社団法人外国人留学生高等教育協会理事
一般社団法人専門職高等教育質保証機構理事
文部科学省中央教育審議会元委員
長谷川恵一 学校法人エール学園理事長
一般社団法人外国人留学生高等教育協会理事
一般社団法人大阪府専修学校各種学校連合会理事
大阪商工会議所二号議員
大阪市教育委員会元委員長
近藤佐知彦 大阪大学国際教育交流センター教授
留学生教育学会 会長
(上掲レポート登場順)